トナカイとの出会い
 
【 Reindeer's Story 2】


あれはそう…吹雪がおさまった後の、夜のことじゃった。

月が、それはそれは綺麗でのう…わしは厚着をして、外に出たのだよ。

こういう神秘的な夜には、空気も凍り、あたりは静寂で満たされるものじゃ。
耳が痛くなる程の静けさは、ここにあるべき命の気配すら消してしまいそうな気さえする。

まあ、わしは構わずギュウギュウ雪を踏んで歩いていったんじゃがな。
年寄りには無粋な所があるのだよ。

歩けど歩けど、無愛想な雪と氷の世界…

それはそれは寒くての。
わしの鼻など、ツララが降りそうじゃったよ。

だがしかし、わしはどんどん進んで行った。
こんな神秘的な夜でこそ、『摩訶不思議』がひょっこり顔を出してくるものなのじゃ。

なぜわかるか、じゃと?

ほっほ、そりゃあ決まっておる。
わしがお前さんよりかはいくばくか、長生きをしておるからじゃよ。

さあて話を元に戻そうか…

夜の紺碧と、雪の潔白、そして夜空の星が素晴しく輝くこの大地で。


わしは寒さをこらえて森の奥へ奥へと進んでいった。


わしには確信があったのじゃ。
何かが、きっと起こるに違いないと。

…そうしたらほら、どうしたことじゃろう。

しばらく歩くうちに、空に…光る何かが見えたのじゃ。

最初はペガサスかと思うたよ。

何せ四本足の生き物が、光を蹴散らしながら空を走っているのじゃから!

わしはその場へ駆けていき、目を凝らした。
そして目を丸くしたのじゃ。

これはどうしたことか、空からトナカイが駆け降りてくるではないか!

なんとまあ、不思議なことよ!

トナカイは、雪の結晶と金の粉を蹴散らしながら、月の影から雪の上へと着地したのじゃ!



わしは目の前で起こっていることが、信じられなかったよ。

角も体格も、毛並みも、すべてが力強い不思議なトナカイが、
「なにも不思議なことなど無い」と、勘違いしてしまうほどの自然さで、大地へ降り立つ。
そしてその後、気がついたかのようにわしを見たのじゃ。

その瞳に宿る理性は、人知を超えておるような気がしたよ。

見つめられて、わしの方が怖気づいてしまっていたかの。


『お、お前さんは…そ、空を…降りてきたのじゃな?』


不思議を目の当たりにし、肝を冷やした老いぼれのわしの口からは、
結局のところ、そんな言葉しか絞り出せなかったわい。

今思い出しても、情けないことじゃ。

じゃが、それに気を悪くした風でもないトナカイは、わしの前で足を止め、首を下げたのじゃ。



トナカイの角の端からは、ペンダントのように木のプレートが下げられてあった。

どうやら、そのプレートをわしに見せたいらしい。

わしはトナカイに近づき、プレートを外した。
それは金粉をまぶしたようにキラキラと光る、素晴しいプレートじゃった。


そして…

ああ、なんということじゃろう。
わしは驚きと喜びの声を、同時に上げなくてはならなかった!

そのプレートには、こんなメッセージが書かれておったのじゃ。


『地球に住む皆様へ、ささやかな贈り物です。
―――貴方たちとは別の世界に住む者達より。』

挿絵

 
 
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